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ブレークスルー 2023アイデアは周期表から 世界最強ネオジム ... - 東京新聞

◆ざっくりいうと

 世界最強とされる「ネオジム磁石」を発明し、さまざまな工業製品の小型化や高性能化に貢献した。

 佐川真人(さがわ・まさと) 1943年徳島市生まれ。神戸大、東北大院などを経て72年富士通に就職。82年住友特殊金属(現プロテリアル)に転職し、間もなくネオジム磁石を開発。退職後に京都でベンチャー企業を設立。2016年大同特殊鋼顧問。名城大カーボンニュートラル研究推進機構シニアフェローなども務める。

わずか1グラムのネオジム磁石で3キロの鉄の重りを持ち上げる佐川真人さん=京都市で

わずか1グラムのネオジム磁石で3キロの鉄の重りを持ち上げる佐川真人さん=京都市で

 世界最強の力を持つとされる「ネオジム磁石」。パソコンの小型化や電気自動車(EV)の普及に貢献し、今や100円ショップでも売られるほど身近になった永久磁石だが、1982年に発明したのは日本人のサラリーマン研究者だった。大同特殊鋼顧問の佐川真人さん(79)。発明につながるアイデアは、子どもの頃に誰もが授業で学んだ、「水兵リーベ…」でおなじみの“あの表”から得たという。 (鈴木凜平)

◆PC小型化、EV普及に貢献

 -世界最強といわれるネオジム磁石。どのくらい強力なんですか。

 これは三キロの鉄の重りです。ネオジム磁石の付いた持ち手を近づけると、ほら。簡単に持ち上がりますが、実は持ち手のネオジム磁石は一グラムしかないんです。以前、世界最強だった「サマリウム・コバルト磁石」の約二倍の力です。

 -すごい。何でできているんでしょうか。

 鉄とネオジムの割合が七対三くらいですね。それとボロン(ホウ素)が1%ほど使われています。

 -どういうところで使われているんでしょう。

 小さくて強力なモーターに貢献しています。最も重要なのはパソコンのハードディスク装置です。十キロ以上の重さがありましたが、皆さんが持ち運べるほど小型化し、身近になりました。エアコンやスマートフォン、EVにも使われています。

 -ネオジム磁石がこれだけ普及しているのは、鉄が主成分というのも大きな理由なんでしょうか。

 そうですね。サマリウム・コバルト磁石に使われるコバルトは高価で、主産地はアフリカの紛争地。一方で鉄はコバルトよりも安くて豊富に入手でき、磁気も強い。「どうして鉄で強い磁石を作らないのか」と疑問を持ち、鉄と希土類元素で強い磁石を作れないか考えるようになりました。

 しかし当時、この組み合わせは磁石にならないというのが常識でした。磁気がなくなる「キュリー温度」が低く、実用化に向かなかったのです。

 -なぜネオジムに目を付けたのでしょうか

 ヒントになったのは、ある講演会の話。鉄と希土類の化合物のキュリー温度が低い理由として「鉄と鉄の原子間の距離が近すぎるから」と聞きました。実際はそうではなかったのですが、当時はこの話を元に周期表を確認してみました。

 周期表は元素の大きさも分かるようになっています。中でもホウ素やカーボン(炭素)、窒素といった小さな元素を使えば、鉄と鉄の間に入り、距離を広げてくれるのではないかと考えました。

 そこで実験してみると、鉄と希土類にホウ素を組み合わせると相性が良いと分かりました。では、どの希土類が良いのか。周期表でサマリウムのすぐそばにあり、同じ希土類でも比較的豊富なネオジムを試すと、強い磁石ができました。

◆諦めず研究続け不可能を可能に

 -周期表が鍵になっていたんですね。

 何だか嫌われがちな周期表ですが、実は材料の宝箱ですよ。鉄やコバルト、ニッケル、そしてサマリウムやネオジムといった希土類も全部一覧になっています。ここからアイデアが出てくるし、この中に未知のことがまだまだあるはず。世界最強の磁石のアイデアもここから生まれました。一般の人にも周期表をもっと身近に感じてほしいです。

 -もともと理科少年だったのでしょうか。

 幼い頃、父親から湯川秀樹博士の話を聞いて科学者に憧れ、理科が好きになりました。大学と大学院では金属材料について研究しましたが、あまり成果を上げられませんでした。その後、民間企業の研究所に入り、磁石の研究を始めたことが転機になりました。

 会社から与えられたテーマはサマリウム・コバルト磁石を丈夫にすることでしたが、毎日会社の研究が終わってから鉄と希土類の磁石についても調べるようになりました。会社に新しい磁石の開発を提案しましたが却下され、四十代手前で転職。転職先では社を挙げて研究を応援してもらい、ネオジム磁石の発明や工業化にこぎ着けました。

 -今後は。

 ネオジム磁石はまだまだ改良の余地があります。例えば熱に強いネオジム磁石を作る過程で、サマリウムやネオジムとは別の高価な希土類が必要なのですが、これを使わなくしたい。

 そして若い研究者たちに、これから社会にどんなことが必要か考え、誰もやっていないテーマに取り組む「ニュークリエーション」という考え方を広げたいと思っています。私自身も、できないと思われていた鉄と希土類の磁石が絶対社会の役に立つと思って諦めずに研究しました。若い人たちと一緒に実践を続けていきたいです。

<永久磁石> 電流を流すことで磁力を持つ「電磁石」と異なり、外部からのエネルギーを必要とせず、自ら磁場を発生させ続ける物体。1917年、物理学者の本多光太郎博士=愛知県矢作町(現岡崎市)出身=が当時世界最強とされた永久磁石「KS鋼」を開発するなど、多くの日本人研究者が永久磁石の研究に取り組んできた。


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