高級ブランド「シャネル」を創設したフランスのファッションデザイナー、ココ・シャネルは、恋人から贈られる高価な宝石を身に着けることを忌み嫌っていた。なぜだったのか。映画プロデューサーの髙野てるみさんの著書『ココ・シャネル 孤独の流儀』(MdN)より、彼女の言葉の数々を紹介する――。
女が宝石に夢中になるのは「高価だから」
なぜ、美しい宝石に気をとられるのだろう。
首の周りに小切手をつけているのと同じことではないだろうか。
女ならば宝石に夢中になって当たり前。それを男から贈ってもらえれば自分は特別な存在になった気持ちになれる。
それは、宝石がキラキラと美しいことだけではなく、高価なものだから。それを贈られる価値、身に着け見せびらかす喜び、なにより、自分に自信を持たせてくれるものが宝石だから、と女たちは思うことだろう。
愚かなことだと、シャネルは言う。
男が女を自分のものにするときに贈られる宝石は、その代償にも似た存在であるとシャネルには思えてならなかった。ましてや、それをネックレスとして首の周りに着けて喜んでいるなんて、あさましい限りではないかと。
宝石とひきかえにその男の言いなりになんかなるものかと逆らうのは、シャネルだけなのだろうか。
女は男の言いなりだと思われることが腹立たしい
確かに高価で、きらびやかな宝石を贈ってもらえたら、正直誰だって嬉しいはずだ。ただ、そのお返しはどうすればいいのだろう。やっぱり、シャネルの言うとおりなのだ。
高価な宝石をプレゼントすれば、女は男の言いなりだと思われること自体、腹立たしい。なにごとにも言いなりになるのが大嫌いなのが、シャネルという女なのだから。
しかし、シャネルに贈り物をする男たちは絶えなかった。当たり前の、男の「おもてなし」なのだから。ルビーやエメラルドが人気で、男たちはおつきあいしたいという意思表明のためにも宝石を差し出してくる。
ロシア革命が起きて、多くの貴族たちがフランスに亡命、文化人たちも大挙してパリに滞在するようになる。知りあって親密になったディミトリー大公から高価な宝石をプレゼントされたシャネルは、新たな創作のインスピレーションを得る。
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