「闇のカニ」はあなたの食卓にも… カニマフィアの「抜け道」は ... - 東京新聞

　日本とロシア間の冷凍カニの輸出入で統計上、不自然な取引が続いている問題で、中継貿易の拠点として第三国のオランダがクローズアップされる。オランダ経由で比較的、安く手軽にカニを調達できる半面、IUU（違法、無報告、無規制）漁業の温床になっているとの指摘もある。ただ、実態はよく分かっていないのが現状だ。（前口憲幸）

◆第三国で加工したカニ缶の原産国は…

　「オランダはノーマークでした」

　WWFジャパンのIUU漁業対策マネージャー植松周平さん（43）は、本紙との共同調査の過程でそう吐露した。

　ロシアのカニ漁業では無許可の乱獲や偽造書類を使った不正輸出が横行しており、闇のカニビジネスに手を染める犯罪組織は「カニマフィア」とも呼ばれる。

　これを食い止めようと日ロ間で結ばれた協定は、カニを漁獲した船の船員名簿なども把握される厳しいもので、2014年の発効以降、不正は困難になったというのが日本政府の立場だ。

　ただ、ロシアでは依然、カニマフィアの摘発が相次ぐ。闇のカニは日本に入っていないのか。

　鮮度を考慮しないため流通ルートが複雑化しやすい冷凍カニに関してロシアの輸出状況を調べるうち、奇妙なデータを示したのがオランダルートだった。

　いったんオランダを介せば日ロ間の規制は適用されない。発効前後からのオランダへの輸出急増は「IUU漁業由来のカニの新たな流通ルートになった」（植松さん）可能性を示していた。

　他方、食品輸入会社にとって、日本の食卓に高価なカニを少しでも安く届けるために、オランダは都合がよかった。関税を支払う必要がない巨大な保税倉庫群を備え、中継貿易のハブ港とされるロッテルダム港の存在からだ。

　国内水産業界最大手「マルハニチロ」ロジスティクス部長の片野歩さん（59）は「オランダを介した中継貿易自体は1990年代半ばに始まった。自分も初期から携わったが、当時はIUU漁業は大きく問題視されていなかった」と説明。日本と比べ保管料は格安で、欧州市場へのアクセスにも好条件だった。ノルウェー産のサバ輸入などでも活用してきた。

　マルハニチロは今、IUU漁業廃絶に向けた取り組みをしている。そうした食品会社の努力の一方で、ブローカーが闇で入手し、オランダ経由で流通してしまう恐れもある。

　片野さんは「食卓に並ぶ魚介類がいつどこでだれが取ったのか。日本ではIUU由来のものが混ざっていても区別できなくなっている」と指摘する。

　さらに、「冷凍カニの場合、別の国で加工されるケースも増えている」と解説する。缶詰などに加工された場合、原産地は、漁獲した国から加工した国に変更される。カニマフィアが取ったものが、アジア産のカニの缶詰に化けている可能性さえある。

　オランダルートについて経済産業省の担当者は「船便で相当量が国内に入っている」と認める一方、具体的な規模や、中継加工については「統計がなく不明」としている。

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WWFジャパン事務局長の東梅貞義さん

◆「食と海の問題に目を向けて」WWFジャパン事務局長・東梅（とうばい）貞義さんから読者へのメッセージ

　魚やカニ、イカやタコといった海の水産物。この海の恵みともいうべき水産物が今、世界の海洋環境の悪化により、深刻な危機にさらされています。水産物として利用される生物の3分の1は、すでに乱獲状態にあり、持続可能な範囲の漁獲枠に余裕があるとされるのは、わずか1割。日本はもとより世界全体を見ても、これ以上天然魚の漁獲量を増やすのが難しい状況です。

　さらにIUU（違法、無報告、無規制）漁業と呼ばれる問題も深刻化しています。これは水産資源の乱獲や漁業の現場で人権侵害を引き起こしている国際的な課題で、日本と関係の深い問題です。日本は消費している水産物の4割を輸入に頼っていますが、その3割がIUU漁業に由来していると考えられるためです。

　すでに地球全体の生物多様性が過去50年間に69％も失われた中、こうした状況が続けば、世界の海はさらに豊かさを失うことになります。

　日本にとって水産物は全国の食と地域の産業を支える大事なものでもあります。水産物を起点としながら、世界の水産業をめぐる課題と、未来に向けて今、私たちが考えるべき海との付き合い方について、今回、東京新聞と共同で記事を掲載する機会をいただきました。ぜひ、皆さまにはご自身の食生活につながっている問題として、この海の問題に目を向けていただき、今何をするべきなのか、ご一緒に考えていただければと思います。