
バロック時代に演奏され、ピアノの原型となった
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父親がアマチュア画家で、幼い頃から画集や彫刻の作品集に囲まれて育った。自然と美大への進学を目指すようになったが、絵画を深く学ぶほど、美術の世界で生計を立てられる自信が揺らいでいった。
進路を悩んでいた浪人生の時、自宅で聴いていたバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の解説にあった「この曲はチェンバロのために作曲された」という一文が目に留まった。
「どんな楽器なんだろう」と気になって仕方なくなった。銀座の楽器店を訪ねると、運良くドイツ製のチェンバロが1台だけ置かれていた。実物を目にするとますます興味を刺激された。毎日店に通い、下からのぞき込んだり、鍵盤を外してもらったりして観察を重ねた。
元々手先が器用だったこともあり、「試しに自分でも作ってみようかな」と思い立った。見よう見まねで、約2年かけて完成させた。
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16世紀頃から宮廷や貴族の邸宅で演奏されたチェンバロは、蓋や響板に絵画や彫刻などの豪華な装飾が施されているものが多い。「自分の好きな絵画と音楽の両方に情熱を注ぐことができる」と、チェンバロ作りにのめり込んでいった。
図面や写真を基に、様々なチェンバロの復元を試みた。分からないことは欧州のコレクターや博物館に手紙を書き、返事があれば、現地を訪れてその構造や特徴を目に焼き付けた。演奏会が催されれば、楽屋を訪ねて奏者からも話を聴いた。
こうした活動を続けているうちに、修理の相談などを持ちかけられるようになり、国内の奏者の間で「修理や困りごとは久保田に聞けば大丈夫」と重宝がられた。
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結婚を機に、新座市に工房を構えたのは20歳代後半の時。チェンバロは、約10種類の木材を手作業で組み合わせて完成させる。早くても3か月はかかり、装飾に手の込んだものだと、製作に数年かかるものもある。一台ずつ丁寧にもの作りを続け、これまでに約500台を製作した。
過去のモデルを復元するだけではなく、自ら設計したものも販売する。最も人気があるのが、「チェンバロは高額で、音大生が練習できず困っている」という相談を受けて開発した学生向けの低価格モデルだ。
現在はチェンバロだけではなく、18世紀頃にポルトガルで作られたとされる初期のピアノの復元に挑んでいる。文献なども断片的にしか残っておらず、手探りでの挑戦だが、初めてチェンバロを作った時のような情熱で取り組んでいる。
【略歴】 くぼた・あきら 1953年、東京・神田生まれ。78年にドイツの「オルガン製作マイスター」の資格を持つ須藤宏氏の工房で楽器製作を学んだ。98年から2004年まで、東京芸術大学で非常勤講師としてチェンバロの構造について講義した。
【記者から】 コロナ禍で練習場所を確保できなくなった音大生のために、2022年に工房近くにスタジオを開設。無料で開放し、音楽家の卵たちを支援している。
工房では、長女のみずきさん(39)ら7~8人の職人たちを熱心に指導する。「熱中できるのは若さの特権」と笑うが、誰よりも楽器作りに熱を入れているのは、古希を迎えても若々しい久保田さん自身ではないかと感じた。(服部菜摘)
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