日本人の約4分の1が苦しんでいるとされる腰痛。原因不明であることが多く、現場の医師たちも手を焼いている。特集『選ばれるクスリ』(全36回)の#23では、痛み治療で広く使われてきたあの“人気薬”の真の効果、アップデートされた腰痛治療の新常識を解説する。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
有効性のあいまいな薬が
原因不明の腰痛で使われてきた
腰痛の経済的損失は年3兆円――。これは、19年に東京大学と企業の共同研究チームが発表した試算だ。腰痛など体の痛みによって仕事の効率が落ちるほか、運動不足になり他の病気にもかかりやすくなって医療費が増大するためだという。
3兆円とはまた大きな数字だが、確かに腰痛は日本人の国民病ともいえる。厚生労働省が毎年行う日本人の医療、福祉、年金、所得などに関する「国民生活基礎調査」では、3年に1度の大規模調査で、身体に何らかの自覚症状がないか、その種類を調査している。
最新の19年調査によれば、足腰の痛みを含め腰の痛みを自覚しているのは約2800万人(下図参照)。実に日本人の約4分の1が腰痛持ちで、市場は莫大だ。
市販薬では湿布や塗り薬、スプレーなどの外用薬が中心であるが、医療機関では飲み薬や点滴も併用してもらえる。
しかし、実情は「医療機関でも日本で使える薬の中に、患者全てに対して即効性が期待できる薬は乏しい」(東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の川口浩医師)。国民皆保険制度の日本で、薬を処方してもらうよりも高価なマッサージや整骨院がにぎわっているのもその証左なのだろう。
西洋医学における腰痛治療の難しさは、何といっても原因が特定できない症例が多くを占める点だ。腰痛を訴える患者が受診した場合、医師はまず悪性腫瘍(がん)や腹部動脈瘤といった重篤な病気や、背骨の圧迫骨折、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などを疑うが、川口医師が勤務する東京脳神経センターでも、主訴が腰痛の患者のうち、半数から3分の2が非特異性(原因不明)だ。
さらには原因不明であるが故に、有効性があいまいな薬でも「適応がゆがめられ、現場で頻用されてきた」(川口医師)という大問題もある。このような現状を踏まえ、19年に7年ぶりに改訂された「腰痛診療ガイドライン」では、これまでよりも客観的なエビデンスデータに基づいて、改めて治療法が整理された。
「適応がゆがめられ、現場で頻用されてきた薬」とは一体何か。次ページではアップデートされた腰痛治療の新常識を解説する。
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