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東京マラソン走れず…様々な思い乗り越え、前向きに - 日本経済新聞

3月1日午前9時10分、東京マラソンのスタート。都庁前に整列するランナーの塊は、例年とは大きく異なり、とてもコンパクトなものでした。天気は快晴で、昨年大会の冷たい雨とはまるで対照的。トップランナーと一緒に走りたかった――。そんな思いでテレビ画面を眺めていたランナーはたくさんいたことでしょう。

東京マラソンで都庁前を一斉にスタートするエリート選手たち(左)。一般ランナーも参加した昨年(右)から大幅に減少した(代表撮影)=共同

東京マラソンで都庁前を一斉にスタートするエリート選手たち(左)。一般ランナーも参加した昨年(右)から大幅に減少した(代表撮影)=共同

大会から遡ること約2週間の2月17日に、一般ランナーの参加を取りやめ、マラソンエリートおよび車いすエリートの部のみと、規模を大幅に縮小して開催することが発表されました。私の周りにも出場予定だった方がたくさんいました。数多い大会の中で、東京マラソンは都会の真ん中を走り、好記録が狙えるコースであること、充実したエイド、何重もの列を成す沿道の応援、トップ選手と一緒に走れることなど数え切れない好要素が凝縮され、間違いなく人気が突出している大会です。

エリート選手にとっては五輪への選考アプローチという位置づけもあるかもしれませんが、一般ランナーでこの大会を通過点として他の大会に重きを置くような方はほとんどいないでしょう。倍率11.1倍となった抽選に当選された方も、寄付を納めて出走権を得た方も、貴重な機会に最高の走りをしたいという気持ちで照準を定めてここまで来たことでしょう。

規模縮小に際して、まず聞こえてきた言葉は、様々なことを犠牲にしつつ、それまでにかけてきた「時間」についてでした。3月1日に向けて、トレーニングや体のメンテナンスに注いだ「時間」。もはや走力を披露することができなくなってしまった。そこにかけてきた「時間」を自分の中でどう整理したらよいのか、やり場のない思いでした。様々な境遇や思いを、点と点を結ぶ形で紹介したいと思います。

上級者

いくつか通過点となる練習レースに参加し、その都度軌道修正しながらここまで来たことでしょう。時には走り込み期間にあえて調整をせず、万全ではない形でレースに出場するパターンもあったかもしれません。「東京マラソンを走れないことが早くわかっていたら、どこかのレースできちんと力を出し切って記録を狙うレースをしておきたかった」。そう悔やまれている方は多いのではないでしょうか。

年配ランナー

ランニングキャリアと年齢を重ねると、調子には長期スパンの波があり、毎年が最高のコンディションというわけにはいかないことを悟るものです。その中で東京マラソンに出場が決まった今シーズンはここ数年で最高の年にする――。そんな意気込みで体力と情熱を注いできた方は多く、「あともう1年」の集中モードの持続は長く感じることでしょう。

地方から参戦されるはずだったランナー

上京に合わせて久々に親類や友人と会う約束をされていた方もいらしたようです。その方は走れないとわかると、せめてトップランナーの生の走りを観戦したいと思ったものの、家族の反対、そして「応援自粛」を受け入れ、泣く泣く旅程の全てをキャンセルされたそうです。

楽しみはレースだけではない

予定通過時刻を見定め、綿密な移動乗降プランを立てて仲間を応援予定だった方。大会後には「反省会」「慰労会」などと称した、完走者を労い、走りを省みる数え切れないほどの宴が予定されていたはずです。マラソン大会は、レースそのものだけではなく準備、その後の振り返りなども含めたパッケージでランナーそれぞれの物語となり、記憶に刻まれていくものなのだと思っています。

こんな気持ちも

一方で、体調がいまひとつだった方、多忙で本格的な練習に取り組めなかった方からは「中止と聞いて、内心ホッとした」という言葉も漏れていました。私は昨年の富士登山競走の山頂コースで、当日朝、「悪天候のため5合目で打ち切り」と宣告された経験があります。練習不足を自覚していたため安堵した一方、その状態でどれくらいのタイムで走れたのか、その足跡は残しておきたかったと悔やむ気持ちもありました。今回、不調が続いていた方はいかがだったでしょうか。

東京マラソンに向けて培ってきながら、やり場のなくなったエネルギーをどうするか。今シーズン中にまだ予定の大会がある方は、どうか気持ちを切り替えて爆発させてください。早速、次の東京マラソンが行われる2021年3月7日までのカウントダウンをSNS(交流サイト)に掲げて気持ちを奮い立たせている方もいます。ここからの1年はエネルギーを持続させるにはあまりに長いですが、通過点となる大会を含め、長期的に計画を立て直すのに十分な時間があると、前向きに考えることが大切ではないかと思います。

エリートランナーだけが走った今年の大会は2時間4分15秒でエチオピアのレゲセ選手が優勝、そして大迫傑選手が2時間5分29秒の日本新記録でフィニッシュ(4位)しました。東京五輪の代表争いで一歩リードしていた大迫選手は、黙ってライバルの結果を待つのではなく、自分の走りで五輪出場を決めるという強い思いでレースを展開した上での見事な結果でした。

大迫選手の走りに、参加できなかった多くのランナーの無念を払拭させるものを感じた=共同

大迫選手の走りに、参加できなかった多くのランナーの無念を払拭させるものを感じた=共同

新型コロナウイルスの流行や世の中の閉塞感、「勇気を与える走り」などと関連づけた、様々な解釈の記述を目にしました。ただ、出場されたエリートランナーの皆さんには「走れなかった方々に力と勇気を」というような配慮はなくて構わないというのが私の考えです。決められたルールの下で真剣勝負に没頭する。鍛え抜かれた体と体が潔く競い合う姿に、観戦するそれぞれが個別に共感したり、勇気をもらうこともあれば、時に違和感を覚えたり、自分はむしろこうありたいと自分らしさを改めて自覚することもある。レースから得た価値観は普遍化されるものではなく、様々な感じ方があってしかるべきだと思います。

私は、特に大迫選手の走りに、参加できなかった多くの方の無念を払拭させるものがあったと感じています。中盤で先頭集団から遅れ、五輪代表入りを争う勝負から脱落してしまったかに見えたところからの復活。多くの方が経験したことがある、下降線を描くラップ波形のストーリーを覆した走りは、出場機会を奪われた多くのランナーに前を向かせ、「来年はきっと自分も笑顔で走りきろう」と思わせるものがあったのではないでしょうか。

さいとう・たろう
1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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March 11, 2020 at 01:00AM
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