「鑑定ビジネス裏表」(4)
文明論的に見ると時代はどこに向かうのか。多様性の時代に企業や職場はどうあるべきか。「とうほく経済」に求められる視座を週1回、4人の識者・経済人に輪番で発信してもらう。
■「お宝」人によって違う
古物商の仕事をしていて近年依頼が多いのが「遺産・遺品鑑定」です。一般の個人はもちろん、弁護士や税理士、司法書士といった士業の方からの依頼も頻繁にあります。故人が残した品の真贋(しんがん)を見極め、価格を付けて見積書を作成するのが、私たちの役目です。
遺産・遺品鑑定をしていて思うのが、「お宝」は人によって違うということです。夫のお宝が妻には必ずしもお宝ではなく、親にとってのお宝が子どものお宝とは限りません。残された遺族には価値を見いだせない品物に高値が付いたり、貴重な品だったりすることもあります。
しかしながら、高価な品や多額の資産が、遺族を幸せにするかといえば、必ずしもそうとは言えないのも悩ましい現実です。
多額の遺産・遺品が親族同士の相続争いを引き起こし、家族の仲が引き裂かれるケースを少なからず見てきました。数百万円の金の延べ棒、高価な時計、貴重なお酒…。故人の品々に込めた思いとは懸け離れたところで、遺族が争う場面に直面するたびに悲しい気持ちになります。
故人が大切に残した金品が、故人が決して望まなかったであろう身内のいさかいを生んでしまう…。この仕事をしていて、人の悲しいさがを思わずにはいられません。
願わぬ末路という点では「空き家」もまた同様の問題をはらんでいます。人が住まなくなった家は、どんな大豪邸であっても傷みが進み、数年で廃虚のようになってしまう例もあります。ましてや最近は地震や水害などの災害が続いています。被災すれば目も当てられないぐらい荒廃が進みます。
■金銭的豊かさ、時に「怨」に
では、人は次代に何を残せばいいのでしょうか。私見の域を出ませんが、私は他者への「恩」だと思っています。「あの人には生前にお世話になった」「困ったときに助けてもらった」。そんな他者への恩こそが、遺族の支えとなり、力となるのだと感じます。
人は恩を忘れない生き物です。残された遺族がピンチになった時や何か挑戦をしようという時、故人の残した恩が手を差し伸べてくれるのだと思います。
高価な宝石や貴金属は確かに金銭的な豊かさをくれます。しかしながら前述の通り「怨」となって争いを引き起こすこともあります。方や恩はなくなることも消えることもなく、恩を受けた人の心の中で生き続けます。
健康や愛情に勝る宝はないと思いますが、他者への恩という財産を将来のために残すことを心がけることは、大切なことだと考えます。どんなに素晴らしいお宝も多額のお金も、残念ながら天国には持って行けません。
(古物商「仙台買取館」代表取締役=仙台市在住)
[桜井鉄矢(さくらい・てつや)さん]1981年、宮城県岩沼市生まれ。2004年、明治大経営学部卒。古物商大手「大黒屋」に入社し、東京・新宿西口店店長、フランチャイズ事業課長などを歴任した。11年、東日本大震災で実家が被災したため、帰郷して「仙台買取館」を設立。現在は仙台市内でフランチャイズ店として「大黒屋」3店を営む。18年には着物をリメーク販売する「サムライアロハ」も設立し、代表を務める。妻、長男(3)の3人暮らし。
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