JR西日本グループのジェイアール西日本コンサルタンツ(大阪市)は、格子模様のターゲットを構造物に取り付けて撮影する方法によって劣化や変状を検出する技術を開発し、「鉄道技術展・大阪」(2022年5月25~27日、インテックス大阪)に出展した。30m程度の距離からターゲットの変位を10μm程度の高精度で検出できる「サンプリングモアレカメラ」を利用し、複数のターゲットを撮影した画像から指標を得る。高価な設備を使わず、危険な作業も伴わずに構造物の状態を定量的に把握できる。
サンプリングモアレ法は、ターゲットの格子とカメラの画素の格子に由来するモアレ縞(しま)を画像処理によって生成する処理を経て、位置を10μm程度、角度を1万分の1ラジアン程度と高精度に把握する方法。モアレの縞を波と捉えたときに、何本目の波で山谷のどのあたりに相当するか(位相)の情報から格子同士のズレの量が分かり、位置と角度を算出できる。
ターゲットは1枚だけでも、列車通過前と列車通過中の撮影画像の比較で、構造物の変形量を高精度で把握できる。しかし、「単に変形量を高精度に測定しても構造物の健全性を評価するには十分ではない」(ジェイアール西日本コンサルタンツ執行役員で技術本部技術開発部長の栗林賢一氏)。「変形量は通過する列車の速度によって変わってしまう」(同氏)ためだ。
列車には台車が一定の間隔で装着されているため橋梁通過の際に一定の振動を起こしやすく、橋桁に共振が発生するとたわみ量が増える。振動数は台車の間隔と列車のスピードで決まり、同じ重さの列車でも車両のタイプとスピードによってたわみ量はまちまちになる。従って、たわみ量だけの情報を得ても、最大許容値以内であると確認するくらいしか使い道がなかった。
新たに開発した方法では、橋桁の支承(ししょう)*の状態把握を目的に、橋桁の支承の上、支承部の外側すぐの場所、橋桁の中央(径間の中央)の3カ所にターゲットを取り付け、1枚の画像に入れて撮影する(図1)。支承には、わずかなすべりによって橋桁の動きを許容し、大きな応力の発生を防ぐ働きがあるため、支承の劣化が進むと橋桁に異状が生じる(図2)。特に支承部のすぐ外側で橋桁に疲労亀裂が入りやすいと分かっており、3カ所のターゲットの同時撮影で疲労亀裂の前兆を検知する。
* 支承 主桁や主構といった上部構造物と、橋台や橋脚などの下部構造物との間に設置する部材。
具体的には、支承上のターゲットと支承部外側のターゲットそれぞれについて、橋桁のたわみによって生じる回転角(たわみ角)を測定する。支承が劣化してすべりが悪くなると支承上のターゲットの動きが少なくなる一方で、支承部のすぐ外側で橋桁に負担がかかるようになり、支承部外側のターゲットの動きは大きくなる。前述のようにたわみ角の大きさのみでは定量的な判定ができないが、「たわみ角を橋桁中央部のたわみ量で割ると、列車のスピードや共振の影響をほぼ排除した指標を得られる」(栗林氏)という1)。
実際の鉄道の高架橋で、支承部を交換する工事の前と後に撮影して指標を比較してみたところ、設計情報から得られる理論値からのかい離が工事後に大きく減った1)。JR西日本コンサルタンツは「ターゲットを取り付ける際は垂直・水平をそこまで厳格に管理する必要はなく、高所であっても1回取り付ければ継続して使えるし、そもそも建設時に取り付けておけばよい」(栗林氏)と手軽さを強調する。
鉄道技術展・大阪に同社は、サンプリングモアレカメラの応用技術に加えて、線路や構造物に単純な円形の計測用ターゲットを数十個設置してデジタルカメラで撮影する「デジカメレールウォッチャー」も出展(図3)。例えば、ターゲットをレールに装着しておくと、画像から軌間(線路幅)、水準(左右の傾き)、通り(左右方向のズレ)、高低(上下のズレ)を算出できる。ターゲットは光を再帰反射(入射した方向に反射)するため、夜間にも測定可能(図4)。線路や構造物の工事、線路付近の工事などで50件以上の導入例があるという。
参考文献
1) 栗林賢一、川下光仁、武内宣夫、津野義博、藤垣元治、河野広隆、「簡易かつ経時変化の評価が可能な鉄道橋の健全度評価手法の提案」、『日本実験力学会 分科会合同ワークショップ論文集』、2018年.
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