東京マラソン 日本記録の先へ＞（下） 井上大仁（２７）:スポーツ(TOKYO Web) - 東京新聞

全日本実業団対抗駅伝の４区で区間新の快走を見せた井上大仁（左）＝１月１日、群馬県太田市で

◆海外勢に一泡吹かせる

　今月１９日、所属チームの記者会見で、井上は大好きな日本のロックグループ「ＵＶＥＲ　ｗｏｒｌｄ（ウーバーワールド）」について楽しそうに語った。「Ｏｎｅ　Ｌａｓｔ　Ｔｉｍｅ（ワンラストタイム）の歌詞がいい。良い曲がたくさんある。ライブに行けば良さが分かりますよ」。５カ月前とは明らかに違う、穏やかな表情が好調を物語っている。

　昨年９月の東京五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ」（ＭＧＣ）は優勝候補に挙げられながら、完走者で最下位の２７位。「練習でもレースでも体が動かなかった。どうしようもない。ああいう感覚は初めてだった」。指導する黒木純監督は「準備段階を含めて、気持ちの問題」と敗因を振り返る。

　ずっと、ぴりぴりと張り詰めた雰囲気を醸し出していた。「走らなきゃ、やらなきゃという使命感があった」。レース前恒例のニュージーランド合宿では趣味の折り紙もできないほど、心にゆとりがなかった。ＭＧＣ前に行われた記者会見では、普段は温和な井上が珍しくいら立っているのが分かった。

　時間の経過とともに結果を受け入れ、１カ月が過ぎたころ、吹っ切れた。「どうせ走らないと、やっていけないんだから」と前を向いた。

　元日の全日本実業団対抗駅伝は４区で１７人抜きの快走。設楽悠太（ホンダ）が持つ区間新記録を更新した。走力が高く、スピードもある。約３週間のニュージーランド合宿を経て、今月６日にレース前最後となる４０キロ走を行った。黒木監督は「過去最高だった」ときっぱり言う。

　東京は験がいい。２０１７年に日本人トップで初めて２時間８分台を記録し、１８年には２時間６分５４秒をマーク。以前から「日本勢より海外勢を意識している」と話す井上にとって、強豪がそろう東京はスイッチが入りやすい。

　「ライバルはケニア、エチオピア勢。日本記録を一つの目標として、それ以上のレベルで海外勢と優勝争いできればいい」。日本記録よりも、２時間２分台から４分台の自己記録を持つ海外勢との勝負を重視する。そうすれば記録はおのずと付いてくる。

　井上は報道陣と「ＵＶＥＲ　ｗｏｒｌｄ」の話に花を咲かせ「歌詞と重なる部分があるんです」と感情を込めた。好きな曲の「Ｏｎｅ　Ｌａｓｔ　Ｔｉｍｅ」はこんな一節で終わる。「一泡吹かせに行こう　一つで良いずば抜けろ」。東京で海外勢に一泡吹かせ、ずばぬけた走りを。歌詞と自らの姿を重ねている。　（森合正範）

＜いのうえ・ひろと＞　２０１７年世界選手権男子マラソン代表。１８年の東京で当時日本歴代４位の２時間６分５４秒をマーク。同年ジャカルタ・アジア大会で日本勢３２年ぶりの優勝。長崎・鎮西学院高、山梨学院大出。箱根駅伝は４年連続で走る。ＭＨＰＳ。２７歳。長崎県諫早市出身。

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